Nekotamibnneko

2015年12月6日日曜日

まにあわにゃい。(TェT)




 昨日、なんか小説完成までもう一日かかるかもと思って
Twitterのお礼RTに手を付けてしまったら、
小説の方に手を付けられなくなくなってしまった。(-ェ-);

というわけで今夜で書き終わるかもしれないけど、
いつも翌日見直しもしながら更新するので また明日か明後日になります、
ネコタミ更新。m(_ _)m;



そんなこんなで暇つぶしにでも、以前『優しい人』まで中途半端に宣伝していた
ショートショートの無料立ち読みできる部分でもどうぞ♪


『優しい人』と『続・優しい人』の二本立て全編です。Σd(ゝω・o)


今回は〈了〉マーク以外は改行しないで、そのままコピペで掲載してみました。

個人的には横書きだとこの形式のほうが読みにくいと思うんですが、
どうでしょう?(^ェ^);



その他のショートショートなど、他にも読んでみたいと思われる方は、
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☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆☆☆☆ 


 『優しい人』


 僕は光《ひかり》さんが本当は優しい人だということを知っている。    
 最初に会社の外で彼女を見たのは、東京のある大きな駅でのことだった。
 通勤途中で乗り換える人の多いその駅では、その日の朝も皆、自分が乗る電車のホームに急いでいた。
 その駅の壁際に一人、苦しそうにうずくまっているホームレスの男性がいた。
 悲しいことだがそう珍しいことではない。
 誰もが見て見ぬふりをするか、駅員がなんとかしてくれるだろうと、ちらりと横目で確認はするものの、足早に通り過ぎていった。
 かくいう僕もその一人だった。
 その日は遅刻しそうだったのもあり、正直に言えば関わるのが怖かったのだ。
 もし病気でもなんでもなく、親切心を出したばかりに因縁でもつけられたら厄介だ。
 もし本当に酷い病気なら、誰かが救急車を呼んでくれるだろう。
 そう思いながら通りすぎようとした時、人の群れの中から光さんが飛び出してきた。
 光さんは迷うことなく男性のそばに膝をつくと、覗き込むように容態を確認し、電話をかけはじめた。たぶん救急車を呼んだのだろう。
 その姿は一瞬、神々しいほど美しく見え、僕は思わず立ち尽くしていた。
 だがそれも後ろを歩く人たちに押しやられるまでのことだった。
 我に返った僕は、乗り継ぎの電車へと向かってその場を立ち去った。
 会社に着くと、僕はさっそく同僚たちにその話をした。するとみんな信じられないといった顔で一笑に付した。
 無理もない、影野光さんのあだ名は『影子さん』。
 ものすごい美人なのだが、ほとんど笑わず、仕事の要件以外は誰とも何も話さない。
 見た目は綺麗だが、心は冷たい人だというのが僕ら同期の間での常識だった。
 その日だいぶ遅れて出社することになった彼女は、いつもどおりクールな様子で、遅刻の理由を上司にのみ淡々と述べていた。
 これもよくある話かもしれないが、このギャップのある彼女に僕は恋をしてしまった。
 僕は影子さん、いや光さんに猛アタックを開始した。
 最初はもちろん、まったくと言っていいほど相手にされなかった。
 昼飯時に話しかけてみたり、帰りの電車の方向も同じなのだからと会社終わりに飲みに行きませんか、などと誘ってみたのだが、すげなく断られた。

 姿勢正しく真っ直ぐ前を向いたまま、表情を全く変えずに「他人に関わりたくないの」との一点張りだった。ちらりとこちらを見ることも稀なほどだ。
 正直、何度か挫けそうになった。
 それでも諦めなければ縁はできるものなのか、帰り道や街中で彼女を見かけることも増えてきた。こっそりと観察していると、彼女はやはり優しい人だという確信に行き着いた。
 ある時は偶然居合わせた交通事故現場で運ばれる被害者の救急車にまで付き添い、またある時は夜の繁華街で酔いつぶれた女性を介抱していたりと、僕が彼女を見かける時は、とにかく献身的に人を救っていることが多かった。
 日の光や街灯の下に輝く美しく長い黒髪。
 それが地面につくのも厭わず他人を救おうとしている姿は、まさに天使のようだった。

 僕はますます彼女に夢中になった。
 他人に関わりたくないなんて言っておきながら、困っている人を見捨てられない、奥ゆかしい彼女の役にも立ちたかった。
 僕はその事も彼女に伝えることにした。
 僕だけは彼女の本当の姿を知っている、隠さないで欲しいと。
 
 そんな風に彼女にアプローチをはじめてから3ヶ月ほどたった頃、彼女の様子が目に見えて変化した。
 一緒に夕食を食べたり、時々は飲みに付き合ってくれるようにもなった。
 ようやく僕の気持ちが彼女に届いたのかもしれない。二人だけの時、彼女は優しかった。
 ある夜の食事中、僕はなぜ赤の他人にそんなに優しいのかと訪ねてみた。
 すると彼女は、少し戸惑って、うつ向きながらこう答えた。
「……誰にでも優しいわけじゃないわ」
 ただ、と僕の手のグラスを見ながら続けた。
「これから死んでしまう人には、優しくしようと決めているの」
 僕は最初、怪我や病気をしている人に対して、という意味で言っているのかと思った。
 だが彼女によると、そうではないらしい。
 彼女は幼い頃から、まもなく死ぬ人間が判別できたらしい。
 これから亡くなる人間の”影”が、彼女の目には映らないというのだ。
「だから、あまり人と関わらないようにしているの。親しい人の死は知りたくないから」
 そう言って彼女は席を立った。
 僕は彼女に、どうしても聞く勇気が持てなかった。
 なぜ突然僕に優しくしてくれるようになったのかと。            


 
 〈了〉






 『続・優しい人』


 私は、荒木太陽がものすごく、しつっこい男だということを知っている。
 ついでに言えば、何事もなければ、彼があと70年はピンピン元気で生きていくだろうことも知っている。
 私には他人の寿命が”影の濃さ”で見えるのだ。
 
  最初にこの能力に気が付いたのは小学校3年生の時だった。
 放課後、校庭で”影踏み鬼”の遊びをしていた時のことだ。
 その時のルールは、みんなで一斉に鬼にも逃げる側にもなるもので、私はみんなと同じように無邪気に何人かの影を踏んでいた。
 そのうち一人の女の子に、影がないことに気が付いた。
 当時の私はただ単純に、「最初から影がないなんてずるい!」と思い、そのままそういうことを彼女に伝えてしまったんだと思う。
 何かの冗談かと思われたようで、その子と話しているうちに他の誰かが彼女の影があると思われる位置を踏んで、その時の影踏みは終わった。
 それでも私が食い下がってみんなに訴えていると、そんな私がだんだんと気味が悪くなってきたようで、クラスメートたちはランドセルをしょってばらばらと校門を飛び出して行った。
 一人になった私は、真っ赤な夕日を浴びてトボトボと一人で家に帰った。
  あの時のみじめな気持はよく覚えている。
 翌日のことだった、緊急で朝、全校集会が開かれ、前日影のなかったあの子が、帰り道に自動車に轢かれて亡くなったことを教えられたのは。
 田舎の小さな小学校だったから、クラスは一つきり。
 それから地元から少し離れた私立の中学校に入るまで、私は彼女を呪い殺した妖怪みたいな目で見られ続けた。
 そう、これからすぐに亡くなる人間の影は、私の目には映らないのだ。
 そんな小学校の時の経験以来私は、人と積極的に関わらなくなった。
 日々誰かと仲良くしていればどうしたって相手の影は目につく。
 ふとした瞬間に誰かの影が昨日よりも薄いことに気が付いてしまったら、もう平常心でその人とは関われない。
 私だって最初は、中学や高校のクラスメートや教師などで、死の前兆に気が付いた人間には、それとなく注意喚起をしてみたり、悩みがあるなら相談にのるからと訴えてみたり、健康診断を勧めたりしてみた。すると当たり前だが気味悪がられて、距離を置かれた。
 そしてその後しばらくして本人が死んでしまうと、私の死の予知の噂だけが一人歩きする。そうしてまた私は、クラスで一人きりになった。
 大学の頃になると私は、家族以外に関わるすべての人間を他人だと思うことに決めた。
 誰かの影なんて見ない。関わらず、気が付かなければ良い。そうすればなんの能力もない、他の普通の人間と同じだ。
 こんな能力を持って生まれた自分と、そんな風に産んだ親と、創造した神様を恨んだこともあった。
 でもある日、社会に出て、働くようになってふと思いついたのだ。
 もしみんなが何か一つ、特殊な能力を持っていて、それを私のように隠して暮らしているんだとしたら、と。
 一つ一つは小さな仕事でも、それが最終的には世の中を動かす力になる。
 そんな風に、ひょっとしたら私が知らないだけで、私も誰かの何かの力に、助けられて生きているのかもしれない。
 私の能力は、死の期限が見えるだけのものだ。それを回避や延長させることはほとんどの場合できない。
 この能力で何かできるとすれば――。
 これからすぐ死ぬと解っている人間の役に立つことくらいだ。
 だから私は、気が付いてしまった時だけは、死のその瞬間まで、その人に優しくすることに決めたのだ。
 
 
  ※ ※ ※  ※ ※ ※  ※ ※ ※ 
 
 だからただ、こっぴどく振るだけで良かったのだ。本来なら。
 乗換駅で、会社までまだ距離もあるからと気を抜いていた。
 私が人を助けているところをたまたま見られたのだ。同僚の、荒木太陽に。
 彼は同期入社で部署も同じだが、それ以上でもそれ以下でもない、ただの同僚だ。
  仕事以外で話したことはなかった。その時までは。
 それから彼はお節介なことに、会社の同期連中にその事を広め、私が「本当は優しい人」だと吹聴しているらしい。
 その上私に告白し、しつこく付きまとうようになってきた。
 ……。
 だから私も即、振ったのだ。
 少なくとも、何度も、普通の男なら立ち直れないくらいに冷たい態度で接してきたはずなのだ。なのに彼ときたらまったく諦める様子がない。
 3ヶ月ほどそんなことを繰り返していたが、さすがにこちらも限界だ。
 社内ではもはや彼のキャラクターと私がセットで扱われ始めている。
 彼は知らないだろうが、女子社員の、男性社員のいない場所での嫌味はかなり悪質なものがある。私はただ、目立たず、一人で生きていければそれで良かったのだ。
 そこで私は考えた。
 一度付き合ってみて、そして変な女だと思われればいい。
 向こうから振ってくれるまで、嫌われるようなことをすれば良い。
 それで――。
 それで今夜。
 言ってしまった。
 私には、人の死の期限が見えることを。
 なぜ本当のことを言ってしまったのか解らない。
 確かに嫌われるにはこれ以上ない情報だ。
 だけど変な宗教にハマってるだとか、アイドル以外に興味がないとか、実は女の子が好きなの、とか、嘘をつこうと思えばいくらでも思いついていたはずなのに。
 これでお終いだ。
 彼は悪い人じゃないけれど、友達が多く、口が軽い。
 悪気はなくとも、興味本位でこの事を知った人間から私がどう扱われるかは解らない。

 そんなことを考え、俯きながら駅までの道を一人歩いている。
 長い髪はこんな時に便利だ。
 人の影も、私の涙も、隠してくれる。
 転職も考えなくてはいけないかな、と思ったその時、腕をつかまれた。

「あっ、ごめんなさい、泣いてるとは思わなくてその……」

 たぶん食事をしていた場所から追いかけて走ってきたのであろう、荒木太陽がそこにいた。息も荒いし、顔も赤い。
 恥ずかしいのは泣き顔を見られたこっちのほうだ。どうしていつもこっちのペースを乱すんだこの男は!

「あのっ、僕はっ! ……もし、僕が死ぬんでも! それでもその間くらいは光さんと一緒にいたいです!!」

 一瞬、意味が解らなかった。
 ああそうか、さっきの話を丸ごと信じてくれたんだ。
 そして自分がもうすぐ死ぬと、勘違いしてるんだこの人は。

 私は声をあげて笑ってしまった。
 そして泣いた。大声で。
 こんな人通りの多い、駅前の道のど真ん中で。

 すると太陽は、さらに真っ赤になって、周りを見回したあげく、思い切ったように私を胸に抱きしめた。

「ごめんなさい、僕は死にません、とか言えたらいいんですけど……えーと……人間いつかは死ぬものだと思うので! だから、僕は、光さんのその力は、やっぱり優しいものだと思うんです! 死んじゃう前くらい、誰かに優しくしてほしいって人、きっと今は、世界中にいると思うから!! だから僕は――」

 私はさらに大声で泣き始めた。
 彼は少し声をおとして、そして私を優しく抱きしめ直すと、こう言った。

「だから僕は、残りの人生、光さんと一緒に、
これから死んでしまう誰かを、助けて生きたいです」

 私は、荒木太陽が、ものすごくしつっこくて、そして本当に優しい人だということを、知ってしまった。



〈了〉

 







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