2017年2月25日土曜日

【 序章 ・ 第一章:マレビト・スズと風の国 一~四 】他




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↑※上記の『GQ JAPAN』は電子書籍です!(o_ _)o))



先週『GQ JAPAN』を予約しに本屋さんに行ったところ、

「最近、ワンオクの雑誌良く出てる(売れてる)んですよね)」

「さっきも一冊別の雑誌を注文していったお客さんがいて……」


なんて嬉しいお話になり……

『クイック・ジャパン』も一緒に注文(´TωT`)♥。+.。゚:;。+
(こちらは追加注文になるかもという事で、今日届いてるかは解りませんが(^ェ^);


というわけで、午後から取りに行ってきます! (๑•ω•́ฅ✧



今日と明日は、大阪のワンオクのみんなと、
参加される皆さん、楽しい二日間を!!(^ェ^)/♥。+.。゚:;。+





以下、修正後の

【 序章 ・ 第一章:マレビト・スズと風の国 一~四 】

まで掲載しておきます。(o_ _)o))
 

裏話も書こうかなと思いましたが、
そういうわけで出かけますので、また後日!(๑•ω•́ฅ✧











 ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 




【序章】

ほんの少し開いていた窓から、
小さな白い蝶が入って来た。

無垢な魂にわずかに影を落とすかのような、
黒い斑点がその羽に浮かんでいる。

「……今年も来るか、マレビトが」

天井に届くほどの堅牢で巨大な木製の棚が、
部屋の壁八方をそれぞれに囲んでいる。

細かな彫り物細工が施され、
鮮やかな八色の布に覆われたそれには、
古めかしくも美しい数え切れない程の本と、
形も様々な色とりどりの宝石、
水のように透き通った水晶が収められていた。

響いたのはその豪奢な部屋の主人である女性の声だった。

つぶやくように小さな声だったが、
もしその場に聴く者がいたなら、
きっと魂の奥底まで届いただろう。
そういう種類の声だった。

だが彼女の城のもっとも高いこの塔部屋の最上階にいるのは、
先ほど窓から入って来た白い蝶だけだった。
蝶は自分が入って来た場所が判らなくなったのか、
外の景色を透す窓に向かって何度も羽を叩いていた。

蝶が羽ばたいているその影は、紫のビロードに金の縁取りと
房飾りが付いた布が敷かれた、紫檀のテーブルに落ちている。
そのテーブルに向かう深い声の持ち主の彼女の手元には、
手のひらほどの大きさのカードが十枚ほど並べられていた。

「さて」と彼女はまた独りごちた。
「閉じ込められた世界からやって来るのか、
この世界に閉じ込められに来るのか……」

そう言って長く伸びた爪でカードを軽くつついた。
彼女の爪先に触れるカードには、道化師の衣装を着た人物が
子犬を連れて崖の縁を行く姿が描かれている。

もしタロットカードに詳しい人間が見たら、
きっとそれは『愚者』のカードだと言い当てただろう。

ただ、そのカードの人物は大きな猫の姿をしていた。
そしてそのカードに触れる彼女もまた、薄く柔らかなローブを
まとった、人間の女性ほどの大きさの猫の姿をしていた。

長く大きな褐色の耳から下がる、
顔の下半分を覆う薄いラベンダー色のヴェール。
その上に金と紫のオッドアイの、
美しく光る大きな猫の瞳があった。

「どちらにせよ、未来を選ぶのは“旅人”次第……」
そう言って彼女は目を細めて蝶のいる窓を見上げた。

再び訪れた静寂の中、蝶が窓にぶつかる小さな羽音と、
窓の外から流れてくる滝のような水音だけが
かすかに聴こえていた。
 
 




【第一章:マレビト・スズと風の国 一】

終業のベルが鳴った。

塾の講師は『高校受験はこの数日で勝負が決まる』だの、
『推薦の結果待ちの者も気を抜かないように』とか、
そういう意味合いのことを言って、教室を出て行った。

少年は机の上のテキストをまとめると、
自分のバッグにしまい込み始めた。

「あれ、鈴木くん、もう帰るの?」

少年の左隣、窓際の席に座っていた
ブレザーの少女が少年に声をかける。
彼女は少年とは違う中学校の生徒だ。
塾以外でとくに何かを話すほど親しくはない。

「オレ、明日推薦の発表日だから」

“鈴木くん”と呼ばれた少年は曖昧に笑って答えた。
「親が早く帰って来いって」

「いいよな進一郎は推薦組だから!」
少年の真後ろの席に座っていた
もう一人の少年が小突きながら笑いかけた。
彼は少年と同じ、詰襟の学生服を着ている。
同じ中学の同級生だ。

「オレだってまだ決まったわけじゃないっつーの」
これにも曖昧に苦笑いをして答えた。

明るいイエローグリーンの人工ダウンを着込んで、
ダウンと同じメーカーのショルダーバッグを肩にかける。

紫が基調のバッグには、こちらもダウンと同じ
明るい色調のライトイエローとイエローグリーンで、
大きく派手に“Viaggio(ヴィアッジョ)”と
そのブランドロゴがデザインされている。

少年、進一郎が最近好きなスポーツ・アウトドアブランドだ。
値段の割にデザインも性能も抜群に良い。

このダウンも『ペンケースほどの大きさに薄く丸めてしまえるのに、
いざという時には寝袋になるほど暖かい』という触れ込みだ。

ありがたいことにそこまで過酷な状況に置かれることは
まずありえなくても、どういうわけだかこういった
アウトドアに強いアイテムに惹かれるのだ。

「じゃあな友梧、と、えーと……滝口さん」

進一郎がそう言って席を離れると、滝口さんと呼ばれた少女は
少しビックリした顔をして、顔を赤らめた。
そして胸の前で「またね」と小さく手を振った。

友梧と呼ばれた少年はそれを横目で確認すると、
ニヤニヤ笑いながら「おう」と答えた。そして叫んだ。
「先に受かって俺を待っててくれ!」

進一郎は教室の扉越しに、
それに答えて苦笑しながら軽く手を振った。


学習塾を出ると、外は予想以上に暗く、寒かった。首をすくめ、
バッグの中から濃いグリーンの毛糸のマフラーを取り出し、
ダウンの上から顔の半分を覆い隠すようにそれを巻きつけた。

塾は小さな駅の前の一角にある。
午後七時前の商店街の灯りはまだ明るく、
人の通りもそれなりに多かった。

どのみち家には帰らなければならないが、早々に帰って
母親や父親に下手に気を使われるのもうっとおしい。
少し暗くて遠回りになるが、
人通りの少ない路地裏を選んで歩くことにした。
それは進一郎にとって気分が沈んだ時に選ぶ、秘密の通り道だ。
今は同級生や知り合いにも会いたくなかった。


明日から二月なんだなぁ、と進一郎は他人事のように思った。
一月最後の冷たい風が、少しだけ癖のある
黒い前髪を乱して吹き抜ける。

明日、試験の結果が合格ならばその高校に通うのだろう。
もしそうでなくても、どこかの高校に受かるまで試験を受けて、
どこかの高校に通うのだろう。

どうでも良い気がした。

どうせこれまでと同じだ。
どこでだってそれなりに上手くやっていけるだろう。

勉強は嫌いじゃない。
頑張ったところで日本有数の有名大学に行けるほどではないが、
試験やテストの時に力を入れれば、そこそこの成績は取れるだろう。

スポーツも同じで、運動神経もそこそこ、
技術はともかくとして体力にだけは自信がある。
だから部活は極力一人で出来て、
内申書受けも良さそうな陸上を選んだ。

マラソンコースを走るのは好きだ。
走っている間は何も考えなくて良いし、誰かに気を使わなくて済む。

そんな感じできっと高校に行っても
部活はそのまま陸上を選んで、勉強もそれなりにして、
クラスの人間関係もなんとかやっていけるだろう。

「それでなんなんだろうなぁ。オレの人生」

気がつくと、あと三百メートルほど真っ直ぐに歩けば、
家に着いてしまう距離だった。
立ち止まってつぶやいた一瞬、足元を左から右へ、
黒と黄色の小さな影が横切った気がした。

(猫がバナナをくわえていた気がする)

まさかと思い猫か何かが横切って行った
右横の小さな路地に視線を移すと、
目の前に工事現場の通行止めの看板が立っていた。

その道の少し先の方には、いくつか並んだ街灯のうち、
一本だけ灯りの消えたものがあった。

「そういえば、前から消えかかってたよなあの街灯」

ついに寿命が尽きたんだろうか。
言いながら、無意識にそちらに歩き出していた。

百六十七センチ程の進一郎の背より高い
コンクリートの両壁がそれぞれの家を守っている。
街灯たちはポツポツと、その細く長く続く路地に
誇らしげに丸く灯りを落としている。
灯りの消えた一角だけが、世界から切り取られたように黒い。

『まるで自分みたいだ』と、進一郎は思う。

使えなくなったらいつの間にか新しいものに取り替えられて、
でもきっと誰もそれには気がつかない。

いくらでも代わりがきく、自分もたぶんそんな人間なのだ。

最後に見て、自分だけは覚えていてやりたい。
なぜかそんな気分になった。

灯りの消えた街灯に近づくと、塀のやや上、
紫色に光る二つの瞳がこちらを見ている事に気が付いた。

内心かなりドキリとしたが、目を凝らしてよく見ると、
塀の向こうのかすかな家の灯りで縁どられた、
黒猫の輪郭が浮かび上がってきた。

『ああ、さっきのはやっぱり猫だったんだ』、
となぜだか少し安心した。

そして『猫ってあんなに高い所までジャンプできるんだなぁ』と、
感心しながら足を滑らせた。

足元から目の前まで信じられない高さで滑り飛んできたのは、
バナナの皮だった。

『ああ、バナナの皮って本当にこんなに滑るものなんだ』と、
進一郎はまた感心した。少し感動すらした。

そして『やっぱりあの猫、バナナをくわえていたんだな。
オレってけっこう動体視力良いじゃん』と、少し誇らしく思った。

次の瞬間、
『バナナの皮が高く飛んだわけではない、
自分が下に落ちているんだ』
と理解した。
そろそろ後ろ手に地面につくはずの両手が
何の抵抗も返してこなかったからだ。

工事中だったのは灯りの消えた街灯そのものではなく、
街灯の真下のマンホールの中の何かだったらしい。

落ちてゆく視界の端に一瞬、穴の向こう側の通行止めの看板と、
その上に飛び乗った黒猫が見えた気がした。







【第一章:マレビト・スズと風の国 二】

人は死ぬ前に、走馬灯のように自分の人生を思い出すと言うが、
進一郎の脳裏に浮かんだのはこんな映像だった。

「本日、午後七時頃、鈴木進一郎さん(15)が東京都○×区の路上で、
誤って工事現場のマンホールに転落し、死亡しました。
原因はバナナの……プッ」

ニュースキャスターのお姉さんが必死に笑いをこらえている。

…………。
嫌だ。

死ぬなら死ぬで誰にも迷惑をかけずに
ひっそりと死ぬのが理想だったのに。

それが下手をすれば百年後くらいに
『本当にあった! 世界ビックリニュース』
みたいな番組にまで紹介されそうな死に方をするなんて嫌だ。

本当にバナナの皮で滑って亡くなった方が
万が一いらっしゃったらごめんなさい。
少なくともオレは知りません。オレが世界初だと思います。
いや、だからそんな世界初嫌だけど!!

「っていうか、死にたくない!!」


「では、折衷案《せっちゅうあん》ではどうでしょう?」

進一郎が叫ぶと、突然闇の中で女性の声が響いた。
それはまるで、魂の底から響いてくるような
深みのある美しい声だった。

同時に進一郎の落下も止まっていた。

辺りは暗闇でまったく何も見えない。
マンホールの中に落ちたはずだが、地面に激突した痛みも、
水に落ちたような音も感覚もしなかった。

ありえないことだが、空中で静止しているようだった。

「なんなんだよこれ……?」

進一郎がつぶやくと同時に、ずっと下の方から風が吹いてきた。

それはあっという間に、進一郎の体を持ち上げると、
落ちてきた方向へ押し出し始めた。
というより、上空に向けて思い切り一気に吹き飛ばした。

「一名様、ごあんな~い♪」

と、再び先程の女性の声が聴こえた。
声の神秘性は相変わらずだが、場所が場所ならなんだか
別のサービスを期待してしまうような調子だった。

「だから何なんだよこれっ!!」

やや怒りを込めて叫んだところで、再び動きが静止した。

目を開けると、眼下には一面、美しく広大な大地が拡がっていた。
地上には強い風にあおられた色とりどりの旗や、白い天幕、
遠くには集落らしきものや森の緑も見える。

そう、空中に吹き上げられた進一郎の
二十メートルほど下に地面はあった。

「高っ……!!」

事態を飲み込む暇もなく今度こそ進一郎は落下した。




ぼふーん!!!!

進一郎が飛び出した穴の周囲にはぐるりと円形に、
虹のような色合いの鮮やかな八色の布が張られていた。
風に膨らみつつも、かなり頑丈に作られているそれは、
どうやらクッションの役目を果たしているらしい。

全身を強打し、薄れつつある意識の中、
どこか遠くで、鈴の音を聞いた気がした。
とりあえず死ななかった自分に安心した進一郎は、
そこでようやく気絶した。


「来たよ、来たよ! マレビトが!」
布の上を飛び跳ねるように、男性らしい声が近づいて来た。

「今回も予言どおりだわねぇ、あなた!」
男性の妻らしき声も近づいてくる。

進一郎をそっと見下ろした二人は、
服を着た、大きな猫の姿をしていた。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 


【第一章:マレビト・スズと風の国 三】

緑色が好きなんだよなぁ、と進一郎は思う。

いつの間にか、風の吹く草原に立っていた。

胸のすぐ下あたりまで一面緑深く、風にそよいでいる
その草原は、進一郎が小さな頃にはよく訪ねていた、
母の実家の千葉の田舎の光景に似ていた。

毎年、夏休みやお正月には、集まった親戚の子供たちと、
家の裏山や畑、近くの公園や川などの自然豊かな場所で
“鬼ごっこ”や“かくれんぼ”をしていた。

だからだろうか。
今でも緑色に包まれていると、何か大きなものに
守られているような気がして、落ち着くのだ。

そんな幼い日の思い出も、今では本当に現実だったのか
疑いたくなるほど遠いところへ来てしまった。

「帰りたいなぁ……」

進一郎は、無意識に口癖になっているその言葉をつぶやいた。

家に帰りたいのではない。
東京の実家の、自分の部屋にいてさえ時々そう思うのだ。

自分自身でもよく解らない。
けれどどこか違うところに来てしまった。
自分がいるべき本当の場所はここではない。

そんな思いが、いつからかずっとある。

ここはどこだろう。オレの帰りたかった場所なのかな。

そう思い、どこかへ歩きだそうとした瞬間、草原のずっと向こう、
地平線の彼方から何やら巨大でプニプニとした、
丸々と太ったピンク色のヒトデのようなものが現れた。

「!?」

それは突然、草をかき分けながら
ものすごいスピードで進一郎に向かって突進してきた。

方向転換して逆の方へ逃げようとしたが、
足に草がからまって頭からその場に倒れ込んでしまった。

慌てて振り返った時には、もうピンクのプニプニしたものは
進一郎の真上に飛び込んで来ていた。



……プニプニ。


そこで目が覚めた。

目は覚めたのだが、
目の前には相変わらずピンクのプニプニがあった。
よく見ると、それは犬や猫の手のひらにある、肉球だった。

寝たまま薄目で確認してみたところ、
どうやら進一郎の頬やオデコをプニプニしているのは、
着物のような服を着た幼稚園児ほどの大きさの子猫たちで、
彼らの肉球らしい。

「起きないね~」「本当に毛が生えてないんだね~」
などと子供らしい、きゃっきゃとした
可愛らしい声で言いあいながら、
飽きずに進一郎の顔をプニプニつついている。

「なんだ夢か……」
進一郎は子猫たちには構わず毛布の中で寝直すことに決めかけたが、
脳細胞に直接目覚まし時計を叩きこまれたかのように飛び起きた。

「猫がしゃべってる!! っていうかでっか!!」

二匹の子猫たちはほとんど縦に飛ぶように驚いた。
そして本当に飛ぶような速さで部屋の外に逃げていった。

「……何なんだいったい……」

進一郎が改めて身を起こすと、オデコに乗せられていたらしい、
緑色のタオルのような物がお腹の上あたりに落ちてきた。

持ち上げてみると手にはひんやりと心地良いが、
嫌な湿り気はない、不思議な素材で出来ていた。

それから辺りを見回してみると、
そこは六畳ほどの暖かい部屋の中だった。

柔らかなベージュ色だが、光沢のあるしっかりとした土壁に、
自然で素朴なデザインを生かした木製のテーブルや椅子。
鏡付きの小さな洗面台まである。

すぐ脇のサイドテーブルには、水差しとカップ、
手のひらほどの花瓶には、薄いピンクの花が飾られていた。

進一郎が寝かしつけられていたベッドは、やはり小さめだが
ふんわりとした気持ちの良い清潔な布団で、太陽の匂いがした。

どうやら看病をしていてくれたのは確からしい。
よくよく考えてみれば、着ぐるみのような物を着た
人間の子供たちだったのかもしれない。
今更ながら、驚かせてしまったことを後悔した。

「……あの……すいませーん、誰かいませんか?」

ベッドから出て声をかけながら改めて自分の体を確認してみると、
いつの間にか上はワイシャツ姿になっていた。

まだ少し痛みの残る手には、
ミントのような香りの湿布が貼られている。
足にも似た感覚があるので、きっと足も治療してくれたのだろう。
そう思いながらベッド脇に揃えてあった
スリッパを履いて立ち上がる。

とりあえず何か上に着るものはないかと改めて見回すと、
部屋の出入り口にかかっているカーテンの傍のコート掛けに
進一郎の着ていたダウンと学生服の上着がかかっていた。

服が無事だったのと、丁寧に扱ってくれていたことに感謝した。
そして一歩そちらに近づこうとしたところで出入り口のカーテンが
シャッと開き、おかしな仮面をつけた生き物が現れた。

「……っ」

たとえ大きな猫が現れても、今度こそ落ち着いて対応しようと
決意していた進一郎の努力は早くも無に帰そうとしていた。

今度の生き物は進一郎よりもだいぶ背が高い。

猫とも狐ともつかない大きな耳と笑ったような細い目の仮面は、
フサフサとした銀色の髪の毛のようなものに覆われている。
そして同じようなフサフサの毛で出来ているように見える
銀色の尻尾が、いくつもぐるりと腰のあたりにくっついた、
おかしな白い服を着ている。

例えるなら日本の鬼や『なまはげ』を西洋風にアレンジして、
サーカスのピエロを掛けた感じ、だろうか。
それが大きなお盆のような物に、
進一郎のバッグなどを載せて持っている。

この生き物の危険性は高いのか、
それとも無害なのか、まったく解らない。
どうするのが最善なのか、自分の理解を超えていたので、
とりあえず口を開けたまま硬直しておいた。

「お目覚めいかがですか、鈴木進一郎くん?」

しゃべった。意思の疎通はできそうだ。というか……。
「オレの名前……?」

「ああ! ごめんよ、勝手に拝見しました!」
そう言いながら仮面の生き物はベッドの反対側の
壁際のテーブルにその大きなお盆を下ろした。

そしてパチンと指を鳴らすと、
進一郎の生徒手帳をその右手の中に出現させた。
トランプのマジックでよく見る、あの感じで。

「これも一応、念のための、危険防止策の一つだから。
ごめんね勝手に持ち物検査しちゃって」

そう言いながら進一郎に近づいてくると、
ワイシャツのポケットに生徒手帳を差し込んだ。

「ボクは銀狐《ギンコ》、よろしくね!」

そう言ってフサの付いた仮面を頭から上に引き抜くように外した。

現れたのは水色にも明るい青にも見える不思議な色を湛えた瞳に、
銀色の長い髪を首の後ろで一つに縛った、
天使のように美しい人間の青年の笑顔だった。

そうしてギンコは進一郎に右手を差し出した。






【第一章:マレビト・スズと風の国 四】

進一郎はおずおずと右手を差し出した。

今日はもう驚き尽くした感はあるが、
またさっきのマジックか何かで
変なものが出てこないとも限らない。

「はい、握手」
指の長い大きな手で、力をあまり入れないようにしている
進一郎の手をやや一方的に上下に揺らすように握手すると、
ギンコはにっこりと笑った。

ギンコは手に『手甲《てっこう》』、
時代劇で忍者などが身に着ける、中指だけを紐で通して固定し、
手の甲を覆う手袋のような物をしていた。
その甲側には水色の雫のような形が三重に描かれている。

なんとなく、神社かどこかで見たことがあった気がする
印だなと進一郎が思っていると、
「あ、コレ? 良いでしょ、水の国認定の『案内人』のマーク」
と、またにっこりと笑った。何やら誇らしげだ。

何が良いのかよく解らなかったが、とりあえず笑い返しておいた。
何はともあれ相手は人間だし、見た目は日本人ではないけれど、
日本語で話ができるのもありがたい。

どういう経緯でそうなったのかは解らないが、
たまたまあの道路で映画の撮影中だったとか、
最近よくある視聴者参加型のドッキリ企画に巻き込まれたとか、
何かしら現実的な理由があるに違いない。

さっきの子猫たちだって落ち着いて見ればやはり、
良くできた着ぐるみを着た子役たちなのだろう。

「えーと……ギンコさん……日本語お上手ですね?」
とりあえず話のとっかかりに言ってみた。

「ボク? うん、ボクはまあ、生まれはイタリアなんだけどね。
親戚に日本人の女性がいるから。
それにこっちの世界に来てから十年くらいになるし、
言葉に慣れちゃったんだと思うよ。あとたぶん、
ほとんどテレパシー的な原理で伝わってるのかもしれないし」

答えの前半と後半で時空的な差があったのは気のせいだと思いたい。
「……こっちの世界?」

「うん、さっき子ネコたちを見たでしょ?
ここは彼らの世界だから。
ボクらはどちらかと言えばお客さん。
稀に地球という世界から飛んでくる人々。
だから“マレビト”って呼ばれてる」

「…………」
言葉が見つからなかった。

「それで、こっちの世界は眠虎《ネコ》、
眠る虎って書くんだけど、そういう名前。
だからこっちの世界の住民は、
自分たちのことを“眠虎の民”って呼んでる。
あ、でも、めんどくさい時はネコとかネコタミとかで通じるからね。
そのへんは人間を人とかっていうのと同じ」

そう言いながらギンコはテーブル横の椅子の一つを引いて腰掛けた。
進一郎にも手振りでベッドか椅子に座るよう勧めた。

「…………」
なんだかもう、なんだかなんだかなもう。
それでオレにどうしろって言うんだ。
そう言いたかったが、口に出してしまったら
この状況を現実として認めたことになってしまう。

そこに、女性の声がかけられた。
「新しいマレビトさんはどう? ギンコ。もう何か食べられそう?」
部屋の入口に、子ネコたちの母親らしきネコが現れた。

母ネコのスカートらしき物の後ろからは、
先ほどの子ネコたち二匹……いや二人が、
耳を伏せぎみに、ビクビクしながら顔を覗かせている。

彼女らを改めてよく見れば、人間のように
自然な立ち居振る舞いでありながら、
耳どころかヒゲや尻尾まで動いている。

それぞれ微妙に体中の毛を膨らませたり、テンポよく尾を
上下させたりしているが、妙な機械音もしなければ、
何かで引っ張ったりしている感じもない。

何より眼でわかる。
感情があって、心がある、生きているものの表情だ。


ああ現実だ。
嘘みたいだけどこっちが現実なんだ。
仮にこれが着ぐるみやアニマトロニクスなら、
ものすごい未来の製品だ。
どちらにしろ、自分がいた世界とは別のところだ。

進一郎はベッドに座り込んだ。


「マオさんありがとう、どう、お腹すいてる?
今、食事はとれそうかな?」

そう言われて初めて進一郎は自分が空腹である事に気づき、
塾の前に軽く菓子パンを食べただけだったのを思い出した。
あれから何時間くらいたっているのだろう。

「……はい、いただきます」
なんだか申し訳ない気がしつつも、そこは素直に頷いた。

マオと呼ばれた母親ネコは柔らかな笑みを浮かべると、
子ネコたちの背中を押すようにして、来た方向へ戻っていった。

「ね、本物でしょ? 信じた?」
振り向いたギンコが笑った。
そうして最初につけていた仮面を一瞬でかぶってこう言った。
「こういう作り物とは大違い」

ここまでくるとこの人のほうが謎なんだよなぁ、
と思いながらも進一郎は聞いてみた。

「ええと……それで地球……というか日本、
オレのいた場所までどうやって帰るんですか?」
ふと、電車代どれくらいかかるのかな、
というような疑問がわいてきた。

まさか飛行機とかだろうか。
それとも来たときのようにワープする
穴みたいな物があるのかもしれない。

一瞬、時間が止まったかのようだった。

「……帰りたい? 本当に?」

今まで何でも即答してくれたギンコの声だ。
だが仮面の中から聞こえてくるその口調は、別人のようだった。

「だって……そんなの、当たり前じゃないですか……」

そうだろうか。
本当に“あの世界”に帰りたいのだろうか。
ここに来る前、自分は何を考えていただろう。

「“マレビト”はね、進一郎くん。
地球のいろんな場所からやって来るんだ。
年齢も、性別も、人種も様々。
でも、すべてのマレビトに共通しているのは――
“もうここに居たくない”。
そう思っている時に何らかの事件や事故に巻き込まれたということ」

ドクン。
心臓を鷲掴みにされたような感覚が進一郎を襲った。

仮面の中からギンコの青い瞳が覗いている。

微笑みのない天使像や絵画の表情は、
良く見てみれば恐ろしいほど冷淡だ。
彼らは美しいが異端者には無慈悲な存在なのだ。
ギンコの瞳は審判を下す天からの使者の眼に似ていた。


「オレは――。オレは……わからないです……帰りたいのか」
うつむいて、頭を抱えた。本当にわからなかったのだ。
もとの世界に戻って、昨日の続きのように生きてゆくのが
自分にとって幸せなことなのか。


ややあって、ギンコが再び口を開いた。

「……『デパートでの放火、行方不明者一名未だ痕跡も見つからず』。
『欧州で大規模なテロ、犯人は逃走中』、
『原発事故、政府の隠蔽か。廃炉への時間と費用は……』」

顔を上げると、いつの間にかギンコは
進一郎の携帯電話をいじっていた。

「ちょっ、人のケータイ勝手に!!」

慌てて取り上げて見ると、開いている画面は
最近配信されたニューストピックスだった。
どうやらこれを読み上げていたらしい。

そして期待はしていなかったが、
やはり思い切り『圏外』だった。

「そっちの世界は相変わらずみたいだね。無理もないか」
いつの間にか仮面を外したギンコは、
困ったように、そして少し悲しそうに笑っていた。

「まあ何にしろすぐには帰れないから!
今夜はよく食べて、よくお風呂に入って、よく寝よう!!」

突然いつもの調子に戻ったギンコに拍子抜けしたが、
明るい笑顔にほっとしもした。
せめて一晩、考えさせてもらおう。


「ご飯ですよ~!!」
美味しそうな匂いとともに、母ネコ、マオの声が聴こえた。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 









Nekotamibnneko