Nekotamibnneko

2017年6月23日金曜日

【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 十五・十六】その他!(๑•ω•́ฅ✧




自民党の豊田真由子衆院議員の暴言・暴力報道のニュースを観て……。

っていうか、暴言の音声を聞いて。

なんか自分にとって許せない程の怒りを覚えたときにあれを思い出して、
「今はたから見た自分はあんな感じなのだ」と冷静に客観視できれば、
たいがいの怒りは沈静化するような気さえしました。

 

(※↑の記事には例の音声はついてません。(^ェ^);)


そんな意味で、このニュースは反面教師的に、
世の中を少し平和にできるかもしれない可能性を感じましたよ。(TェT)


そして東大とハーバードを出ていてもああだと……。
学歴と、人として立派な人物かどうかは別物だという、
これも反面教師としての良い見本ですね。


元秘書の皆さんとご家族の皆さんの
トラウマになっていないように願うばかりです。


これでまだ自民に投票する人って、普段ニュースを観ていないか、
見ても流している感じでニュースの意味を理解していない人なのかなと
心配してしまうんですが、どうなるんでしょうね、都議選。







以下、 【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 十五・十六】となります。





 ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 




 【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 十五】


サーカスの幕が開いた。

ライトアップされた舞台は昼間見た景色とは空気が違い、
幻惑的な太古の森は、より現実感が増している。

実際に何か香のような物も焚かれているのか、
スズが吸い込む霧のように漂う香りも、
まるで深い森の中の空気そのものに感じられた。

「Ladies and gentlemen!!」
ブラッドの心地よい声がマイクを通して響き渡る。

「お待たせしました、我らが風の国の民の皆様。
今宵、愛する故郷に我らシルフのメンバーは帰って参りました!!」

紹介と共にスポットライトを浴び、団員の皆が次々と姿を現す。
内容自体は昼間のテント前で行われたものと大差ないが、
より幽玄さを増した音楽に加え、香り、そして光と闇の美しさを
まとった彼らは、その強さや美しさをいっそう輝かせていた。

客席から割れんばかりの「おかえり!!」の歓声が響き、
それがテント内にみなぎるように木霊する。
まるで妖精の森に王と王妃、勇者たちが帰還したかのようだ。

誰もが自分が立つ舞台に誇りを持ち、そしてそんな自分と自分を
迎え入れてくれる観客を愛し、最高の瞬間を生み出そうとしている。

『ここは自分の居場所だ』という、揺らがぬ確信がある者たちの、
自信に満ち溢れた表情がそこにはあった。

「……満員ですね」
自分では感じたことがないその感覚に、眩しそうに、
そしてほんの少し寂しい気持ちでスズはつぶやいた。

「いろんな国を廻ってきて、一年ぶりくらいだからね。
みんな家族が帰ってきたみたいで嬉しいんじゃないかな」
ギンコが仮面の姿のまま笑って答える。

スズとギンコの二人は舞台裏からステージの様子をうかがっている。
地球の物と仕組みは違うのだろうが、マジックミラーのように、
観客席側から気づかれずに舞台を観劇できる場所が設けられていた。

ライティングの作用なのか不思議な石の力なのか、
時にあの巨木のオブジェはガラスのように半透明になり、
客席やスズたちからの視界を開けたものにしていた。

ステージはリンクやカラの簡単な種類のジャグリングから始まり、
そこに徐々にトランポリンや怪力のオウコの力技が加わるなどして、
メンバーが増える程、より複雑で難易度の高い演目になってゆく。

合間にはテン老師扮する道化師と、魔術師ブラッドのマジック、
そして中盤の盛り上げは魔獣使いのマルコと、ナイフ投げの
エッジ達が繰り広げる、息を呑むような牙と刃の攻防の演目だった。
特にマルコの指示で動く魔獣たちは、スズにとっては映画や童話、
ファンタジーゲームの中でしか見たことのないような生き物たちで、
それらが実際に生きて舞台狭しと飛び、走り回る様は圧巻だった。

どの演目もすばらしかった。
ただ興奮する心の裏側で、一点針で衝いた穴からジワリと
墨が拡がって行くような、嫌な感覚が離れなかった。

どうしてもフーカを目で追ってしまう。
アシストで舞台を華やかに彩る彼女の笑顔は眩しい程に美しい。
だが、いつの間にか彼女の腕、
肘まである手袋を見つめている自分に気付く。
その手袋の中の彼女の傷跡は、スズの脳裏に焼き付いていた。


舞台はラストの演目に入ったようだった。
それはフーカの空中ブランコをメインに、八人全員が参加する
小さなミュージカルのような物らしかった。

カラ扮する妖精の国の女王と、オウコ扮するこちらの世界の男性が
結ばれるまでを描く、悲喜劇を織り交ぜた純愛の物語だ。
二人の住む世界の違いに、反対するもの、応援するものに別れ、
それぞれの特技を披露しながら物語を進めてゆく。

フーカは女王に仕える花の妖精の役らしく、
舞台装置になる巨木の頭上から姿を現すと、
魔法をかけるようなポーズをとって、華麗に空中で舞い始めた。

彼女がブランコから手を離し、美しく体を回転させるごとに
音楽やライトがそれを追い、その技をより輝かせる。

本当に魔法とも言える何かの作用なのか、
彼女の体は時に花火のような不思議な形の光に包まれ、
次々と色を変える煌めく花びらを落としてゆく。

転落防止用のネットはライトの効果などからか、
観客席の者やスズたちの目にはまったく見えない。
それなのに彼女は恐怖や躊躇などは一切感じさせることなく、
鮮やかに空中を飛んでゆく。

「……一つ聞いても良いですか」
スズがギンコに問う。

「なんなりと」
ギンコが答える。その表情は仮面に隠れていて見えない。

「昼間……フーカの腕、見たんです。
……すごく古い物だとは思うんです、
でもまるで、わざとつけたみたいな――。あれって――」

「……たぶん君が思っている通り。
あの傷は、こちらの世界に来る前につけられたものだよ」
顔は舞台の方を向いたまま、眼だけはスズに向けて言葉を紡ぐ。

その声はただ静かで、誤魔化す感じもしなければ、
怒りを抑えているという感じでもなかった。

「……例えば、自分で――」
彼女が来たのはまだ小さな子供の頃のはずだ。
その可能性は低い。

「ちなみにね。
“自殺”や“自傷”でこちらの世界に来た人間はいない。
言ったろ、『事件や事故に巻き込まれた』人間だって。
少なくともボクはそういうマレビトは知らない」

不思議と舞台の音は気にならなかった。
彼の心や言葉が直接耳や胸に届く、そういう感覚だった。

「それに彼女が来たのは十年前、四歳くらいの頃かな。
ボクがこっちに来たのはその三ヶ月後でね。
初めて会った時から明るくて可愛い元気な女の子だったよ」

「えっ、フーカの方が先輩だったんですか!?
っていうか、初めて会ったって、兄妹なんじゃないんですか!?」

「もちろん赤の他人だったよ!
兄妹っていうのは便宜上というか成り行きというかまあ、
そんな風に育ったしそれで間違いではないと思うし。

まあそれはそれとして、ずいぶん助けられたよ!
こんな小っちゃい女の子が知らない世界で頑張ってるのに、
年上で男の子のボクが泣いてばっかりだと可笑しいだろ?」
ギンコは自分の膝程の高さを示し、何かを思い出すように笑った。

「だから彼女はボクの恩人。
――どんな理由でここに来たんだとしても。
これまでもこれからも、それだけは変わらない――」
ステージ上の彼女を見て柔らかな口調でそう言った。
仮面の中、わずかしか見えないが、
その眼の輝きはとても優しく感じられた。

「……はい」
演技が終わり、満面の笑みで観客に手を振る彼女を見て、
スズも頷いた。
不思議と、あのジワリとした嫌な感覚は薄らいでいた。


ミュージカルは大団円を迎えていた。
そしてそれは今日の公演のプログラムの全ての終わりを示していた。
ステージは明るい光に包まれ、最後の挨拶のためにメンバー全員が
観客に向かって微笑んだり手を振りながら、横一列に並んでいる。

その中央で、タキシード姿のブラッドがステッキ型マイクを構える。

「――では本日最後に――我らがシルフ、期待の新人。
“道化師のスズ”に登場していただきましょう!!」

それが自分の事を言っているのだと理解するのに、
スズには数秒が必要だった。




☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 




【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 十六】


「さて、この道化師のスズ――。
実は皆様の愛するこの風の国のサーカス団、シルフに
ふさわしい存在かどうかのテスト中なのでございます!」
ブラッドの魅力的な声が会場に大きく響く。

やはりこれは完全に自分の事だと脳が理解するのと同時に、
信じられないほど血の気が引いて行くのがスズ自身にも感じられた。

「ご挨拶を兼ねた彼のパフォーマンス後に、
皆様のご声援をもって、彼を正式に団員として
招き入れるかどうかを決めさせていただきたいと思います!」

ワッという会場の盛り上がりは、
見事にスズの絶望的な精神状態と反比例の曲線を描いていた。

シルフの『一員として連れて行ってもらう』と言っても、
それは雑用係や裏方の手伝いなどとして、という意味で取っていた。
サーカスの舞台で演じられるスキルなど、何一つ持ってはいない。


「……なるほどね。ほんっとにドSだなぁ、ブラッド」
絶句し、冷や汗を大量に流しながら
瞬きもせずに舞台を凝視し続けているスズの隣で、
どこか呑気な口調でギンコが納得したようにつぶやいた。

「だってオレ、何もできな……ぶっ」
ギンコに訴えようとしたが仮面を被せられた。

「言ったろ、君に失敗はありえない!!
道化師の良さってのはね、失敗も成功に変えられるところだよ!」
ギンコはそう言いながら、スズの背中を押して舞台への道を進む。

「だからね、こういう時は、君が一番得意な事か、
一番苦手な事をやるのが良いと思うんだよね」

スズはギンコを振り返りながら真っ直ぐ伸ばした足でなんとか
ブレーキをかけようとするが、意外に力の強いギンコと、綺麗に
掃除された舞台への通り道は彼の体を上手く止めてはくれなかった。

「前者なら褒めてもらえるし、後者なら笑ってもらえる! 
……かも、しれない」

「かもってそんな無責任な」と、仮面の中で口パクしたところで、
ドン、と背中を一押しされた。

スズがたたらを踏んでなんとか踏みとどまったところは、
舞台裏と舞台を区切るカーテンの先、
音楽の高まりと共にスポットライトを浴びて、
絶妙のタイミングで舞台に飛び出す形となった。

「さあ、『道化師のスズ』の登場です!!」
ブラッドがステッキをマイクにスズを手で指し示す。

引っ込みがつかなくなったスズは、同じ側の手足が
一緒にアクションする壊れたロボットのような
かなりギクシャクとした動きながらも、
とにかくなんとか舞台の中央に歩みだした。
と、同時にこういう時の彼の癖で、脳はフル回転し始めた。

(どどどどど、どうしよう、
得意な事って言ってもだから特にないんだってばオレ!! 
しいて言うなら勉強とか暗記……。
例えば元素の周期表とか円周率ってこの世界でどうなんだ、
言えたところですごいのかどうなんだ!?
苦手な事って言ったらこれだよ! まさにこれだよ!!
人前で目立つのが一番苦手なんだよオレ!!)

スズと入れ違いにシルフのメンバーはステージから退出するようだ。
珍妙かつ緩慢な動きで進むスズに、皆それぞれこっそり声をかける。

「舞台上の道具はなんでも自由に使ってくれて良いからね」
視線でジャグリングなどの道具を示しながらエッジが通り過ぎる。
「どうしようもなかったら一発ギャグでも何でも良いと思うぞ!」
オウコが小さくガッツポーズをしながら励ましてくれた。

(そんな事言われてもオレ、
ジャグリングどころかお手玉もできないし!
一発ギャグ!? ……ジャパニーズ・土下座!! 
ってだから意味が通じないだろたぶん!!)
その後もメンバーがそれぞれに何か言ってくれていたが、
ほとんどパニックになっているスズに役立つ言葉はないようだった。

「……失敗してもいいから、あんたが一番好きな事をすれば」
すれ違いざま、最後のメンバーのフーカが囁いた。

好きな事。
フーカが何か言ってくれるとは思わなかった。
その驚きで少しだけ冷静になれた。

好きな事、好きな事、好きな事……。
何かあった気がする、ずっと大事にしていたのに忘れていた事。
オレが好きだったのは――。

「まずはここまで出てきてくれた、その勇気を評価するよスズ君。
さぁ、ここからは君の独擅場だよ。何でもご自由にどうぞ!」
ブラッドがちらりとこちらを見て、マイクを通さずに言う。
気が付くと、ちょうど舞台の中央に立っていた。

ブラッドの、その深紅の美しい瞳から彼の真意は汲み取れなかった。
だが、そこに意地の悪さや人を陥れる陰険さも、感じられなかった。

「それでは、ごゆっくりお楽しみください!!」
ブラッドが一礼をして去って行く。

ガチガチの体で視線だけを動かし、改めて客席を見てみると、
そこにはおびただしい数のネコタミがいた。
いつの間にか観客を期待で盛り上げるような音楽は止まり、
痛いほどの静けさの中、会場中の好奇心に満ちた光るネコたちの
レーザービームのような視線のすべてがスズに突き刺さっている。
スズの頭の中は真っ白になった。


「テーテーテー・テーテテテ・テーテーテー♪」


静寂とスズの心臓を破るように、
秀逸なメロディの機械音が唐突に流れた。

実際、それはスズの心臓近くから流れ出していた。

体の方は冷や汗でだいぶしっとりと冷えてきていたが、
引いていた血が急激に戻ってきて首から上が火を噴いた様になった。

心も体もバラバラになりそうな自分を意識しつつ、
「むしろ声に出して叫ばなかった自分を褒めてあげたい」と、
わずかに残っている理性でスズは思った。

そしてこれ以上は鳴りようがないくらいの大きさの音でバクバクと
鼓動する胸を叩くようにして音の元凶を胸ポケットから探り当て、
ガクガクする手で携帯のタイマーアラームをオフにした。

そして急激に思い出した。
自分が好きで、かつ、一番苦手な事と、そうなった理由を。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 









Nekotamibnneko